ハワイの衣料品製造業の歴史 その９ 1920年代のハワイの衣料品製造(後編)

ファンダバーク教授の本の翻訳が続きます。


今回は、前回から引き続き、
「1920年代のハワイの衣料品製造」の後編になります。


『1920年代のハワイの衣料品製造は、小売店によるドレスの仕立て、
　男性スーツの仕立て、オーダーメイド衣料が支配的

　　1920年代にシャツの生産を始めた中で最も成功した生地店の１つが
　ムサシヤ・ザ・シャツメーカーだった。

　1959年の『ホノルル・アドヴァタイザー』紙の記事で、
　同店がシャツを作るようになったそもそもの始まりについて
　以下のように説明されている。

　　　”ビジネスの世界の真の開拓者たちは、
　　打ち破らなくてはいけない言葉の壁を持っており、
　　その壁が彼らを祖国へ送り返した。

　　　宮本長太郎は1890年に日本からハワイにやってきて、小さな生地屋を始めた。
　　彼の米国生まれの息子・孝一郎は６歳の時、日本の慣習に従って、
　　学校教育を受けるために日本へ送り返された。

　　　1915年に長太郎が死去した時、
　　若き孝一郎は父の商売を継ぐためにハワイに戻ってきた。
　　英語をほとんど話せないも同然だったし、米国のしきたりもほとんど知らなかった。

　　　商品の発送は不確実だったし、孝一郎はせっかちで、
　　注文したものが届かない時、再び注文してしまった。
　　そして海外からの出荷ではよくあることだが、取り寄せ注文が一度に届いてしまい、
　　若き宮本は、上質な英国製ブロードクロスをたくさん抱えることになった。

　　　その当時、上質なブロードクロスと言えば上質なシャツを意味した。
　　そこで彼はホノルルで一番うまい縫い子を探し出し、上質なシャツを作り始めた。
　　そんな時、彼は、ジョージ・メレンという広告の専門家のアドバイスを聞き入れ、
　　ピジン英語を使ったシリーズ広告を打った。”

　　1920年代から30年代初めまで、ムサシヤ・ザ・シャツメーカーは
　一連の広告を地元紙に出した。･･･略･･･

　　シャツを仕立てる際、彼は英国製ブロードクロス以外に
　富士絹やその他の生地も使った。
　さらに1926年ごろの広告ではハッピ・コート（法被）も紹介している。』


アロハシャツの歴史を語るうえで重要な「ムサシヤ」の話が出てきました。
ただし２つのムサシヤがあったので、混同しないように注意しておいてください。

上の記事にあるムサシヤ・ザ・シャツメーカーは、もともとあったムサシヤの方で、
一説では、1920年代に、オーダーメイドで「アロハシャツのような派手な柄シャツ」を
すでに作っていたとも言われています。
（ただしアロハシャツという名前は付けられていません）
お店に、着物柄の生地があって、それでシャツを作って欲しいと頼まれれば
作ったでしょうから、アロハシャツに近いシャツは存在したかもしれませんが、
それを証明するのは難しいでしょう。

そしてそのムサシヤ・ザ・シャツメーカーから1934年に
（大恐慌後の不況の影響だと思われますが）、店舗と営業権を譲り受けて開いたのが
「ムサシヤ・ショウテン（武蔵屋商店）」で、
オーナーは藤井順一商店（酒類なども扱っていたようです）というところです。

「アロハシャツ」という名前を新聞広告に掲載して
歴史上最初に文字に残した店だという話は以前取り上げました
（その意味で筆者はムサシヤ・ショウテンがアロハシャツの元祖だと考えています）。


譲り渡したほうのムサシヤ・ザ・シャツメーカーは、同じダウンタウンの、
少しワイキキ寄りに新しい店舗を開き（上の写真はそのころの店のようです）、
引き続き「ムサシヤ・ザ・シャツメーカー」を名乗っています。

（筆者コレクションより）

「ムサシヤ・ショウテン」は主に生地と既製品（シャツ以外にズボンなども）を売り、
「ムサシヤ・ザ・シャツメーカー」はシャツをオーダーメイドで作って売るという、
すみわけがなされていたようです。
そしてヴィンテージ・アロハシャツとしては
「ムサシヤ・ショウテン」（その後「ムサシヤ・リミテッド」）のほうが圧倒的に多く、
「ムサシヤ・ザ・シャツメーカー」は（オーダーメイドだったせいか）
非常に少ないようです。

次回からは、1920年代の、工場で製造された衣料品の話に移ります。

（次回に続く）

タグ：アロハシャツの歴史 ハワイの衣料品製造業の歴史