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『ヴィンテージアロハシャツ』51~第五章 日系人タカブキの半生を解き明かしたい●不思議な因縁を感じさせるアロハシャツに出会った [枻文庫『ヴィンテージアロハシャツ』]

しばらくは、2005.10.6発売/現在品切れ の拙著 
枻文庫『ヴィンテージアロハシャツ』から、
文章を再録します。

https://www.ei-publishing.co.jp/magazines/detail/lightning-c-401979/

https://www.amazon.co.jp/%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%83%AD%E3%83%8F%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%84-%E3%82%A8%E3%82%A4%E6%96%87%E5%BA%AB-%E8%A7%92%E7%94%B0-%E6%BD%A4/dp/4777903990

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第五章 日系人タカブキの半生を解き明かしたい
●不思議な因縁を感じさせるアロハシャツに出会った

 さて、二〇〇一年八月に大阪と京都に短期滞在した時、
実はちょっと不思議なことがあった。
大阪での取材を終えた僕は、せっかく大阪まで来たからと、
アメリカ村にある古着屋をまわって、ヴィンテージ・アロハを物色することにした。
すると、何軒かまわったうちの一軒で、
高吹勇が経営していた「イオラニ」の古いアロハシャツが売られていた。
それは壁縮緬の和柄で、コンディションはとてもよかった。
値段はそこそこ高かったが、それでも相場よりは安めに設定されていた。
買おうか買うまいか、かなりの時間悩んだ。
が、結局買わず、宿を取った京都へ向かった。

 そして翌日の夕方。府立資料館での資料探しを終えて、京都駅へ向かう途中、
列車の時間にはまだ早かったので、河原町界隈にある何軒かの古着屋に立ち寄った。
するとその中の一軒で、再び「イオラニ」の、別の古いアロハシャツに出会った。
これもまた壁縮緬の和柄だった。さすがにこの時は驚いた。
というのも、そのほんの一時間ほど前まで、
高吹勇の京都での足跡を調べていたばかりだったからだ。
しかも、彼が手掛けていた「イオラニ」のアロハシャツは作られた数が少なかったせいか、
それまで古着屋では滅多にお目にかかったことがなかった。
そんな珍しいシャツに二日続けて出会ったのだ。
そんな偶然はごくまれにしか起こりそうもない。
「これは、高吹の魂に呼ばれているのかもしれない」。
僕は非科学的なことをまったく信じない性格なのだが、
ついそんな愚かなことが頭をかすめた。
それくらい不思議な出来事のように僕には思えたのだ。

 高吹勇が、自分でプリント工場を立ち上げるよりも前の時代に、
京都で生地にプリントさせ、それをハワイでシャツに仕立てさせた、
「イオラニ」のアロハシャツ。それが、約五〇年の時を経て、
再び京都に舞い戻って売られているという不思議さ。
なのにそんなことには誰も、
お店で売っている人を含めて誰も気づいていないだろうという不思議さ。
この奇妙な因縁に気づいているのは、
広い世界でおそらく自分だけだろうという、ささやかな優越感。
そんなことをあれこれ考えていると、
そのシャツを買うのは自分しかいないという気持ちになってきた。
それは、大きなもみじの柄の、比較的地味な、壁縮緬のアロハシャツだった。
値段は少し高かったが、僕は思いきってそのシャツを買うことにした。
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