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『ヴィンテージアロハシャツ』16~第二章 アロハシャツのことをもっと知ろう●「アロハシャツ」はとても曖昧な言葉 [枻文庫『ヴィンテージアロハシャツ』]

しばらくは、2005.10.6発売/現在品切れ の拙著 
枻文庫『ヴィンテージアロハシャツ』から、
文章を再録します。

https://www.ei-publishing.co.jp/magazines/detail/lightning-c-401979/

https://www.amazon.co.jp/%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%83%AD%E3%83%8F%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%84-%E3%82%A8%E3%82%A4%E6%96%87%E5%BA%AB-%E8%A7%92%E7%94%B0-%E6%BD%A4/dp/4777903990

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第二章 アロハシャツのことをもっと知ろう
●「アロハシャツ」はとても曖昧な言葉

 アロハシャツと聞いて、どんなものを思い浮かべるだろうか? 
「ハイビスカス柄のプリントシャツ」などをイメージする人が多いかもしれない。

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(padba1000さんのヤフオクページより引用)

それを、ちょっとお堅く辞書風に定義するなら、
「南洋調のプリント柄をあしらった開襟シャツ」といったところ。
例えば、杉野芳子編著「図解服飾用語事典」(鎌倉書房刊)では
「派手なプリント柄の木綿の半袖の開襟シャツ」なんて、
わりとあっさり書かれているし、
堀洋一監修「男の服飾事典」(アシェット婦人画報社刊)では
「開襟、半袖を特徴とする派手なプリント柄の綿ないしレーヨン製のシャツ」などと、
もう少し細かく記されている。

 確かにこれらの定義はほぼ正確。
でも、この定義からこぼれてくるタイプがあるのも事実だ。
どうしてうまく定義できないのか? 
それは、「アロハシャツ」という言葉の意味が、
時代と共に微妙に変化したから。つまりこういうことだ。
「アロハシャツ」という呼び名はわかりやすいし、
商品を売るのに都合がいいから、多くのメーカーがこの名称をずっと使ってきた。
でも実際は、流行と共にいろいろなタイプのシャツを作ってしまった。
その結果、名前は同じ「アロハシャツ」だけれども、
見た目の印象は大きく違う、さまざまなシャツが生まれてしまった。
だから、一言では網羅しきれなくなってしまったのだ。

 例外の中で一番わかりにくいのは、和柄。
「兜や太鼓、鷲や虎や龍の柄もアロハシャツなの?」と感じる人もいるかもしれない。

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(筆者コレクションより)

でも、前にも触れたように、アロハシャツの歴史は和柄から始まったのだから、
和柄アロハは最も由緒正しいものだし、
多少違和感があってもこれもアロハシャツなんだということは理解してもらえるだろう。

 また、最も基本的な条件だと思われている「開襟」というデザイン
(襟が開いていて、前立てが全てボタンで開くデザイン)も、
実はアロハシャツの絶対条件じゃない。
襟にボタンが付いた「ボタンダウン」や、前立てが半開きになった
「プルオーバー」など、開襟とは言えないデザインのものもあるからだ。

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(筆者コレクションより)

この両タイプのアロハシャツは、歴史的には一九五〇年代後半から六〇年代初頭に、
当時アメリカ本土で流行していた「アイビールック」の影響を受けて誕生し、
「こぎれいなアロハシャツ」として定着した。
ハワイでは現在でもこの両タイプのアロハが、
ビジネス向けとして、かなりたくさん売られている。

 それから「プリントシャツ」に限定してしまうのも実は間違い。
手描きや刺しゅうで柄を表現したアロハシャツも存在するからだ。
手描きのタイプは、無地のシャツの背中にエアブラシなどで大きな絵を描いたもの。
手間が掛かり、大量に作れなかったためか、
ごく限られたメーカーしか手掛けなかった。
だから現在、ヴィンテージ・アロハの中では
非常にレアなものとして高値で取り引きされている。

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(The Hana Shirt Co.さんのHPより引用)

一方、刺しゅうのタイプは、コットンの無地のシャツの胸部分に、
ワンポイントで柄を入れたもの。
一般的な、全面プリントのアロハシャツが飽きられてきた一九六〇年頃に登場した。

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(The Hana Shirt Co.さんのHPより引用)

特にティキ(ポリネシア地域の神様の像)の刺しゅうが入ったアロハシャツは
当時かなり流行したようだ。

 こんな風に見てくると、アロハシャツの定義なんてできないように思えてくるが、
そんなこともない。なぜなら描かれたモチーフには共通のテーマがあるからだ。
つまり、歴史的な理由のある和柄を除けば、どんなアロハシャツも、
ハワイや南国に関係のある動植物や風物が描かれているのだ。
だから、ペイズリー柄や、小紋柄(小さくて抽象的な柄が繰り返し並んでいる柄)、
幾何学模様などのシャツは、やはり単なる「プリントシャツ」であって、
「アロハシャツ」と呼ぶべきじゃない。

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(change_the_vintageさんのヤフオク出品ページより引用)

実際、一九六〇年代初頭に、
アメリカ本土のメーカーが製造した小紋柄シャツがハワイで人気となったことがある。
それまで多かった、派手なアロハシャツが、
あか抜けないものに思われてきたためだろう。
しかし小紋柄シャツはその当時でも、
「アロハシャツ」ではなく単なる「スポーツシャツ」と表現されていた。
それがアロハシャツでないことは、ハワイの人も理解していたのだろう。

 そのほか、これは賛否が分かれるところかもしれないが、
僕は「フロリダの風景や風物」が描かれたシャツは
アロハシャツとは呼ばないと考えている。
それは「フロリダ・シャツ」とでも呼んでくれと言いたいのだ。
またピクチャー・プリントのシャツの中に、カウボーイ柄のものがあって、
それをアロハシャツと呼ぶ人が時々いるけれど、
僕はそれもアロハシャツとは呼びたくない
(ただし、ハワイにも「パニオロ」というカウボーイがいたので、
「ハワイの風景とカウボーイを描いた柄」であれば、
アロハシャツと呼んでいいと思う)。

 結局アロハシャツは、デザインにはさまざまなものがあるけれど、
やっぱり柄だけはハワイっぽくなくてはいけないのだ。
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