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『ヴィンテージアロハシャツ』14~第二章 アロハシャツのことをもっと知ろう●「日系人がキモノをバラして作った」って話、本当なんだろうか? [枻文庫『ヴィンテージアロハシャツ』]

しばらくは、2005.10.6発売/現在品切れ の拙著 
枻文庫『ヴィンテージアロハシャツ』から、
文章を再録します。

https://www.ei-publishing.co.jp/magazines/detail/lightning-c-401979/

https://www.amazon.co.jp/%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%83%AD%E3%83%8F%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%84-%E3%82%A8%E3%82%A4%E6%96%87%E5%BA%AB-%E8%A7%92%E7%94%B0-%E6%BD%A4/dp/4777903990

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第二章 アロハシャツのことをもっと知ろう
●「日系人がキモノをバラして作った」って話、本当なんだろうか?

 アロハシャツは、ハワイに渡った日系人が、
着古したキモノをバラして作ったのが起源だと言われている。
これって本当なのだろうか? 僕はハワイで、いろいろな人に話を聞いたり
資料を探したりして、この「キモノ起源説」を長い間検証してきた。
その結果今では、この説はほぼ正しくないと思っている。

 そもそもアロハシャツは、商品としては一九三五年頃に、
ホノルルのダウンタウンにあった個人商店で作られた。
これは当時の新聞に広告が残っているのでほぼ確実な話。
問題は、それ以前に、
日系人がアロハシャツの原型となるものを作っていたかという点だ。
僕は、作っていなかったんじゃないかと思っている。

 確かに日系人が、着古して擦り切れたキモノを有効に活用しようと考え、
家庭で、使える部分だけを切って、シャツに仕立てたとしても不思議ではない。
なぜなら、日系人の多くはあまり豊かではなかったし、
多くの日系女性は裁縫の心得があって簡単な服は家庭で作ることが多かったからだ。
ところが、「キモノをリサイクルしたシャツ」があったとしても、
「日系人はそれを本当に着たのか?」という疑問が湧いてくる。
当時の日系人がどんな服を着ていたかを考えると、
アロハシャツを着たとはどうしても思えないのだ。

 一九三五年以前と言えば、日系の成人男性は、
オフィスで働く場合には白いシャツを、
農場などで働く場合にはデニム地のシャツを着るのが一般的だった。
そんな彼らは、どんなに貧しいとしても、
キモノ柄の派手なシャツを着ることには大きな抵抗があっただろう。
一方、日系女性も、まだキモノを着る人が多かった時代だから、
シャツなど着る人はいなかっただろう(当時シャツは男が着る服だったはずだ)。

 もしリサイクル・シャツを作ることがあったとしたら、
それは子供用のシャツだっただろう。子供用のシャツなら、
大人が着古したキモノを使う以外にも、例えば子供用の、
端午の節句の時にしか袖を通さなかった兜や鯉の柄の真新しいキモノを、
そのままにしておくのももったいないので
シャツにしたということだって十分考えられる。
文句を言わせずに着せるような、
小さな子供のために作ったと考えるのが最も理にかなうのだ。

 ところが、それでもやっぱり納得できない疑問点が残ってしまう。
「キモノの生地から作ったように見えるシャツ」を着た日系人や子供が写っている、
一九三五年以前の写真が一枚も見つかっていないのだ。
僕はハワイで、古い写真をたくさん収集しているビショップ博物館や
日本文化センター(日系人による日本文化の紹介施設)、
ハワイ州立公文書館などで探してみたが、
そういう写真は全く見つからなかった。「日系人の多くは貧しかったから、
写真など撮る余裕がなかった」という反論もあるかもしれない。
しかしそれらの施設には、新聞社のカメラマンや
撮影好きな地元の趣味人などが日系人を撮った写真もたくさん収蔵されている。
そういう写真の中に、アロハシャツ姿の日系人がたまたま写っていてもおかしくない。
それなのに、どんなスナップ写真にも写っていないのである。
また僕は、一九二〇年代のハワイの新聞をハワイ大学の図書館でチェックしてみた。
ところがそこにもアロハシャツ姿の日系人の写真は見つからなかったのだ。

 かつて僕は、ハワイ大学でハワイの服飾史を調べている
リンダ・アーサーという研究者にインタビューしたことがあるが、
彼女も、「アロハシャツを着た日系人の写真を見たことがない」点を指摘して、
「キモノ起源説」を否定した。また、長年にわたって、多くの日系一世から、
一世の服装について聞き取り調査をし、
彼らが着ていた服や持っていた写真を譲り受けてきた
バーバラ・カワカミさんという服飾研究家に会って尋ねた時にも、
「着古したキモノからアロハシャツを作ったという話を
日系人から聞いたことはないし、実際に作って着ていたという現物や、
日系人が着ている写真も見たことはない」という答えが返ってきた。

 さらに別の証言もある。日本文化センターでボランティアをしている
日系三世のバーバラ・イシダさんは、
「第二次世界大戦以前の日系人は十人中九人までは貧しかったから、
高価なキモノからシャツを作ったなんてことはあり得ません。
それにシャツを作るにはパターンが必要だけど、
店では売っていなかったし、洋裁学校で習わないと手に入らないから、
普通の人が家で作るのは難しかったと思いますよ」と語ってくれた。

 もちろん、「見た人がいないし写真も存在しない」からと言って、
「キモノをバラして作った」という話を
「一〇〇%間違いだ」と断言することはできない。
が、僕の実感としては、「キモノ起源説」は九割方、
正しくないんじゃないかと思っている。
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